セカンドオピニオン
西島 英利(日本医師会常任理事)

日医雑誌 128巻6号 平成14年 (2002) 9月15日

I.定義

 セカンドオピニオンは,文字通り「第二の意見」あるいは「第二医の所見」などと訳される.ある医師の診察を受けている患者が,医療上重要な意思決定―たとえば,手術を受けるか,薬物療法を選択するかといった意思決定―を行う場面などで,それまでの診療経過,検査結果などの資料をもとに,他の医師の意見・所見を求め,判断の材料にすることを「セカンドオピニオンを求める」などと表現する.現実の医療の場面では昨今,頻繁に耳にする言葉であるが,それ以外でも,建築や資産運用,金融商品の購入など,とりわけ専門的な知識を要する分野において,徐々に用いられる傾向にある.しかし,本来は医療分野で用いられたのが始まりとみられる.

 すなわち,セカンドオピニオンとは,個人が自分自身に関する,きわめて専門的な知識を必要とする内容の意思決定や選択をする際に,その分野の複数の専門家の意見を聞くこと,あるいはその意見自体を指すと定義できよう.


II.生まれた背景

 セカンドオピニオンの概念や誕生の経緯を明確に解説した文献を見出すことは難しいが,一般的な理解として,セカンドオピニオンの考え方は,民間の医療保険が発達した米国において,患者 (被保険者) の治療にかかるコストを抑制する目的で考え出されたものといわれている1) .すなわち,医療費を支払う保険会社としては,同一の疾患に対しては,より低い料金で治療することができる医療機関を選択したいと考え,そこで現在患者がかかっている医療機関とは別の,第二医の治療方針に関する意見を聞き,費用対効果を比較対照する必要が生じるわけである.

 セカンドオピニオンが米国で生まれ出た背景には,上にみたように医療費の抑制というきわめて現実的な理由が存在していたのであるが,その後,この理念は,本来の枠組みを越えて,より積極的な機能を担うようになった.すなわち,経済的なインセンティブを離れて,患者が自ら受ける治療法,ひいてはその後のライフスタイルをも自ら選択し,その価値観を主治医と共有する,そのために必要となる医学的知識の補助手段として,セカンドオピニオンが活用されるようになったのである.


III.この理念の実践

 患者は自分の治療に関するセカンドオピニオンを取得しようとする場合,まず,自分の診療に関する記録,写真等の複写を,現に受診している医療機関から提供を受け,これを第二医に対し検討資料として提示する必要がある.すなわち,セカンドオピニオンのシステムは,診療記録等 (診療録,看護記録,検査データ,X線写真など) の開示が一般的に行われることを前提としている.その意味で,わが国においては,これから発展が見込まれる「診療理念」であるといえる.

 セカンドオピニオンは,患者にとっては医療に主体的に参加し,意思決定を行うために有益な参考資料を入手する行為となるが,これを主治医の側からみれば,自身が診療した結果が,第三者である他の医師によって評価されるという緊張感を伴う行為とみることもできる.しかし,この緊張感は診療行為の萎縮を伴うものではなく,また,そうであってはならない.自分の診療姿勢が常に他の医療専門家の目に晒されているという意識をもつことによって,医師は常に最高の能力を発揮し最大限の努力を払い,自己の診療に誇りをもつべきである.そのうえで,自己の診断結果と異なる立場のコメントに対しても謙虚に耳を傾けたいものである.


IV.海外での趨勢と日本の現状

 前述のように,米国では,セカンドオピニオンの取得は日常的に広く行われていると多くの文献が紹介している.また,米国医師会の倫理規定2) も[8.041]項で,医師が必要と判断した場合には,患者に対してセカンドオピニオンを入手するよう進言すべき旨を述べるなど,セカンドオピニオンの実践は,すでに医療倫理のなかに根ざしたものであることが理解できる.

 翻ってわが国の現状を概観してみると,確かに今日,セカンドオピニオンという用語の一般社会における認知度は,相当に高まってきたといえよう.インターネット上では,一般の患者向けにセカンドオピニオンを提供する医師を紹介するサイトも登場している.また,医療機関が開設するホームページのなかには,セカンドオピニオンの提供を掲げるものもある.

 一方,わが国の実地医家を対象に行ったアンケート調査3) では,セカンドオピニオンに対する認知度は,大学病院勤務医が82%であったのに対して,ある市の医師会会員では46%にとどまるなど,医療界全体からみれば,まだ一部の先進的な取り組みにとどまると評価せざるをえないのが実情である.

 このような現状を踏まえて,日本医師会「診療情報の提供に関する指針」4) は,[4-1]項において,医師相互間における診療情報の提供を促進すべき旨を定めている.これは,医師が他の医療機関に患者を紹介する場合などに,相互の医師,医療機関が協力しあって,患者の診療情報を本人の同意を得たうえで提供しあうべきことを定めたものであるが,同項に関する「指針の実施にあたって留意すべき点」のなかでは,特に患者が第二医,第三医の意見を求めることを希望する場合などにも,この定めが適用されることに言及している.


V.今後の診療に与える影響

 今後,セカンドオピニオンのシステムが発展していくためには,まず,診療情報の提供,とりわけ診療記録等の開示が円滑に行われる環境を整えるべきであることは論をまたない.前記日医指針の基本理念は,医師と患者が診療情報を共有し,相互の信頼関係を深め,治療効果を高めることにある.患者がセカンドオピニオンを取得する行為は,まさにこの基本理念を具現化したものとみることができよう.医師には,今後,セカンドオピニオンを念頭におき,たとえば,第三者の閲読に堪えうる診療記録を作成するなど,診療情報の共有化に積極的に対応していく姿勢が求められよう.

 現在,日医では,この「診療情報の提供に関する指針」の初めての改定作業を進めている.今後,同指針の改定によって,診療情報の提供がより活発化し,セカンドオピニオンの取得を当然のこととして行いうる環境を,わが国の医療界が率先して提供することこそが,真の患者サービスの向上につながるものと信じる.

文献

  1. 木原康樹:セカンドオピニオン.医療ビッグバンの基礎知識―医療の大変革を理解するために―.日本内科学会,1999;58―60.
  2. American Medical Association: Code of Medical Ethics-Current Opinions With Annotations 2002-2003 ed, AMA Press, 2002; 182.
  3. 木原康樹他:アメリカ合衆国におけるセカンド・オピニオン制度の現況並びに同制度を本邦に導入するにあたっての社会基盤上の問題点とその解決指針.ヘルスリサーチニュースVol. 30,ファイザーヘルスリサーチ振興財団,2002;10.
  4. 診療情報の提供に関する指針.日本医師会雑誌 1999;122 (2) 付録.